園だより 園長からのメッセージ

毎月、発行している園だより 園長からのメッセージ

2022年 10月

私を生きる                園長 佐竹 和平

 10月のカリキュラムのテーマは「みんなちがって みんないい」とあります。金子みすゞの詩のフレーズがすぐに思い浮かんできます。

「私と小鳥と鈴と」

私が両手をひろげても、

お空はちっとも飛べないが

飛べる小鳥は私のやうに、

地面を速くは走れない。
私がからだをゆすっても、

きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに 

たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、

みんなちがって、みんないい。

 なんともかわいらしい詩で、速く走れて、歌をたくさん知っている少女がありのままの自分を生きている様が感じられます。多様性を認めることが大事とされ、人種、国籍、ジェンダー、年齢、障害などによる差別やそこから起きる理不尽なことを無くしていこうという昨今の情勢の中にあって「みんなちがって みんないい」のフレーズはとても心地よく聞こえます。

 しかし、改めて調べると、みすゞは1903年明治36年)に生れて、複雑な家庭環境の中に育ち、成人の後に結婚するも夫の放蕩もあり1930年(昭和5年)に26歳の若さで、幼い娘を残して自死しています。みすゞの詩にどのような意味あるのか改めて考えさせられます。

 およそ今から100年前の社会、環境の中です。多様性などというものが認められる場面は少なく、みんなと違う人は排除されることが多くあったでしょう。子どもは親に対して絶対服従、妻は夫に聞き従うのが当たり前だった時代です。男は男らしく、女は女らしくしなければならない風潮もありました。そんな中にあって詠まれたのが、この「私と小鳥と鈴と」になります。私はもしかしたら、走れるのに走るのを禁じられている私。私は唄えるのに唄うのを禁じられた私。「みんなちがって みんないい」の最後のフレーズが、そのことを嘆き悲しんでいる詩のように、私には思えてきます。

 幼稚園の子どもたちを思うと、一人ひとりが自分らしく園での生活を楽しんでいる様がうかがえます。園長の私への接し方もそれぞれです。背中に乗りたがる子。えんちょーかんちょーやきいもマンと毎回叫ぶ子。中にはかまって欲しくて蹴ってくる子、砂をかけてくる子もいます。何かが出来るとか、出来ないとかではなく、一人ひとりが持つ賜もの(神様から授かった個性、能力)を活かして、私を生きることができる幼稚園。保護者の協力を得つつ、教職員一同がもつ賜ものを出し合いその環境を造っている成果だと私は思っています。